公共政策の倫理学(旧地方自治の倫理学)

元藤沢市議酒井信孝のブログです。

<二項道路に関する最高裁上告棄却>の問題点

2016年12月当時の議案
http://shigikai.city.fujisawa.kanagawa.jp/…/Gk1253_gian1612…

本会議録画

https://www.youtube.com/watch?v=iA4aAZFlZYA

上告に対する議決結果(番号38.私のみが反対)
http://shigikai.city.fujisawa.kanagawa.jp/voices/gikaidoc/attach/koho/KhB221_No224_8p.pdf

本会議質疑議事録(2016年12月5日)


◆13番(酒井信孝 議員) 議案第38号について7点質問します。
 1点目。平成24年の確認裁判における双方の主張と敗訴理由を説明ください。
 2点目。その裁判には市側は顧問弁護士をつけなかったとのことですが、なぜ弁護士の助けを得なかったのですか。控訴断念に関しては相談したのでしょうか。
 3点目。確認裁判は控訴しなかったため、市側の敗訴判決が確定してしまったわけですが、なぜ控訴しなかったのですか。その後に市側の主張を強化する資料がさまざま出てきたようですが、判決時点での取り組みが甘かったのではないでしょうか。その責任をどのように考えているのでしょうか。
 4点目。その後、本市が提訴された損害賠償請求の高裁判決で敗訴した理由を説明ください。
 5点目。高裁判決が本市に支払いを命じた確認訴訟の弁護士費用分300万円は、何の損害を根拠に認定されたのでしょうか。また、何で相手方の慰謝料200万円が認められなかったのでしょうか。
 6点目。これまでの訴訟に本市が費やした経費は幾らで、これから想定される経費は幾らになるでしょうか。
 7点目。相手方の訴えを認めた最初の裁判の判決は本市が控訴しなかったから確定したのであって、裁判で認められたことを本市が認めなかったのであるから、相手方から主張が認められるまでの間の不利益をこうむったと損害賠償請求が提訴されれば、それが認められることになるのは何ら不思議もありません。本市への損害賠償請求を認めた高裁判決を上告して覆せる可能性がどの程度あるのか、その根拠を説明ください。

◎計画建築部長(石原史也) 酒井議員の御質問にお答えいたします。
 1点目の確認訴訟の裁判についてでございます。まず、双方の主張でございますが、本市は平成23年の回答と同様に、昭和21年及び昭和29年に撮影された航空写真、分筆の経緯から、基準時である昭和25年時点で本件通路が2項道路に判断できないと主張いたしました。これに対し相手方は、文筆の経緯から市有道路部分と一体の道として本件通路は存在し、また、原告所有建物が昭和27年に新築、昭和38年に増築されており、その際に神奈川県建築主事が2項道路と判断し、建築確認がなされたはずであると主張したものでございます。
 敗訴した理由でございますが、裁判所が航空写真を見ると本件係争地は市街化された地域に含まれており、建物が存在していると見ることが自然であること、原告所有建物の新築及び増築時に本件通路部分を2項道路と判断して建築確認をした蓋然性が高いと言うべきと判断し、2項道路の存在を推測させる事実が存する一方で、否定する事情は認められないとしたことによるものでございます。
 2点目の確認訴訟の対応でございますが、2項道路に当たるかどうかは特定行政庁が判断すべき事項であり、昭和25年当時の状況について複数の資料を総合的に検討した上で建築基準法に定める要件に照らして判断するものでございます。したがいまして、当該訴訟におきましては市がなぜ2項道路に当たらないと判断したかを示す必要がありましたが、これは職員により十分対応ができると判断したものでございます。また、当該地は2項道路であるとの裁判所の判断を受け入れるかどうかにつきましては、法律的な判断が必要なわけではなく、弁護士に相談したい点は特にございませんでした。
 3点目の控訴をしなかった理由についてでございますが、相手方が望んでいるのは建築基準法上の接道義務を満たすことにございましたが、本件係争地が2項道路ではないとなると、接道義務を満たすことが困難となる状況にございました。そのことも含めて総合的に判断した結果、司法の判断を尊重し、控訴しないこととしたものでございます。一審の提起後に見つかった資料につきましては、主なものとして昭和40年に神奈川県から引き継ぎを受けた書類でございますが、その際の目録に記載がございませんでしたので、これを発見できなかったことはやむを得ないと考えており、このことは本件の地裁判決でも認められております。
 4点目の高等裁判所で敗訴した理由でございますが、提案の際に説明いたしましたとおり、高等裁判所判決理由の中で、市が建築基準法の道路に該当すると判断すべきであった根拠として挙げられている事由は、いずれも道路の該当性とは無関係の事由であり、その点で建築基準法の適用を誤ったことによるものと捉えております。
 5点目の弁護士費用と慰謝料についてでございますが、弁護士費用につきましては、本市が回答を誤ったことと確認訴訟の提起を余儀なくされ弁護士費用が発生したこととの間に相当因果関係があるものとして認められたものでございます。一方、慰謝料につきましては、弁護士費用という財産的損害が回復されれば精神的損害は生じないものとして認められなかったものでございます。
 6点目の経費についてでございますが、一審、二審において訴訟代理人報酬が合計77万7,600円、その他職員の人件費、交通費、消耗品等でございます。今後の経費につきましては弁護士と協議いたしますが、訴訟代理人報酬が着手金として25万円ほど、勝訴した場合はさらに報酬金として50万円ほどと見込まれます。
 7点目でございますが、地裁判決、高裁判決ともに回答が誤っていたことが事後的に明らかになったとしても、国家賠償法上直ちに違法となるものではなく、市が注意義務を尽くすことなく回答した場合に限り違法となる旨を判示しております。
 御質問につきましては、現在係争中でございまして、今後の裁判で主張する内容に触れることから具体的な答弁は控えさせていただきますが、提案の際に説明させていただいたとおり、高裁判決は建築基準法の適用に誤りがあること及び市が注意義務を尽くさなかったとした理由に誤りがあることから上告することとしたものでございます。

◆13番(酒井信孝 議員) 再質問を5点いたします。
 1点目。確認訴訟に関しては本市の判断が認められず、原告の判断が認められたのですから、それを不服だと思うのなら控訴審で反証もしくは新たな証拠の提示、別な論理立てによって覆すべく取り組めばよかったのではないでしょうか。
 2点目。確認訴訟の判決に対し控訴せず、判決が確定した場合、どのようなことがあり得るか分析できていたのでしょうか。損害賠償請求されることは想定されていたのでしょうか。
 3点目。昭和40年に神奈川県から引き継いだ書類の中に目録にない書類があったのは、県から引き継いだ際に中身を確認していなかった本市の落ち度だからこそ、高裁では触れていないのではないでしょうか。
 4点目。平成24年の確定判決以後に出てきた資料は加味せず、その裁判時点の情報のみで判断し、原告、被告で見解が分かれていたのだが、判決が2項道路だと認めたことを不服として控訴しなかったということは、見解を誤っていたことを認めたことになり、すなわち注意義務を怠っていたということではないのでしょうか。
 5点目。高裁判決で指摘された注意義務を尽くしたと言えない点に関しては、土地所有者である隣人が通行権を認めていて、実質的に道路として機能している場合は、それを2項道路と認めなくてはならないということではないのか。また、昭和38年の増築時に建物表題変更登記の記録が法務局に残っているのなら、建築確認申請書や確認済証、検査済証が必要であるはずで、役所に記録がないのは本市の落ち度と言えないのか。判決後に出てきた図面の所在を見落としていたのも、県から資料を引き継いだときに確認しなかった落ち度と言えるのではないでしょうか。お答えください。

◎計画建築部長(石原史也) 酒井議員の再質問にお答えいたします。
 1点目の確認訴訟の判決への対応でございますが、先ほども御答弁させていただいたように、本市の判断について説明を尽くした結果である司法の判断を重く受けとめ、また、本件係争地が接道していない状況が解消されることも踏まえ、判決を受け入れたものでございます。
 2点目の確認訴訟の判決が確定した際の影響の分析についてでございますが、この点について特別に検討した経過はございませんが、接道義務を満たすことが相手方の一定の満足は得られるものと捉えておりましたので、損害賠償請求を想定しておりませんでした。
 3点目の高裁の判決についてでございますが、御指摘の県から引き継いだ書類につきましては、相手方が本市の過失の根拠として主張したものでございますが、高裁判決では当該主張について判断しておりませんので、高裁の考えはわかりかねるものでございます。
 4点目でございますが、国家賠償法の規定上は市の行為の誤りが即、賠償の義務を負うような注意義務違反があるものとなるわけではございません。地裁判決、高裁判決、いずれもこのように判示しております。したがいまして、注意義務を怠っていたとは考えておりません。
 5点目でございますが、2項道路の該当性は建築基準法上の要件に照らして通行権のような判定の時点における利用状況ではなく、昭和25年の客観的な状況により判定するものでございます。昭和38年の増築の登記の申請に関しましては変更登記の際に建築確認済証、検査済証を添付することはございますが、これらを必ず添付しなければならないわけではなく、他の所有権を証する書面によることが可能です。建築確認台帳に増築登記の記録が記載されていないということは、市に落ち度があるというよりは、むしろ建築確認を得ずに増築されたものと考えざるを得ません。
 確認訴訟の判決確定後に発見した書類につきましては、当該判決とは逆に2項道路に該当しないことをうかがわせるものでございますことから、国家賠償法上の過失が問われるようなものではないと考えております。

討論

◆13番(酒井信孝 議員) 議案第38号に対する市民派クラブの反対討論を行います。
 本議案は、2項道路の認定をめぐる確認訴訟で、認定しなかった市が敗訴し、それを控訴せずに判決が確定したことから、市に対する損害賠償請求訴訟が提起され、一審では市が勝訴したものの、高裁で逆転敗訴したのに対し、上告した専決処分への承認を求めるものですが、そもそも確認訴訟で市が控訴しなかったことに問題があるのだと思います。答弁でありましたように、原告は所有建物が昭和27年に新築、昭和38年に増築されており、その際に神奈川県建築主事が2項道路と判断し、建築確認がなされたはずであると主張したとのことですが、そのように2項道路であることが認められていたとしたら、セットバックしていなければならず、そうなっていないのだからこれ自体が疑わしいのは明らかです。
 にもかかわらず、この原告の主張を受けて、建築確認された蓋然性が高いとした判決に対し、控訴しなかったために判決が確定してしまいました。すなわち、その蓋然性があるとした裁判所の判断を市が認めたということです。これを前提になされた損害賠償請求訴訟で、高裁が通行権の確認や昭和38年の建築確認などを市が2項道路だと判断するべきだった根拠だと言っていることに対し、それは建築基準法の適用を誤っているとして市は上告したわけですが、確認訴訟で誤った建築基準法の適用を認めてしまい、その判決が確定してしまっている以上、自信を持って正当に仕事をしてきたと市が主張しようとも、確認訴訟との整合性をとろうとすれば市の落ち度を認定せざるを得ないのだと思います。
 こうした状況下で上告したところで勝てる見込みがあるとは思えません。無駄に訴訟経費を浪費するより確認訴訟で控訴しなかったことの問題や責任を明らかにし、再発防止に努めることのほうが、より生産性があると思いますので、本議案には反対します。